映画

「新作の時代劇映画はできるだけ見に行く」、と誓いを立てて約八年。
時代劇映画の紹介を感想交えながら、書いてます。
タイトル五十音順です。

 
『十一人の賊軍』11月1日、『変身』11月22日、『室町無頼』2025年1月17日、『雪の花』1月24日、それぞれ公開予定

あずみ (2003年)

 小山ゆうの同名マンガの映画化。人気アイドルの上戸あやが主演ということも話題になりました。
 か〜なり殺伐としたストーリーで、予備知識まったくなしで見た私は、しょっぱなの展開に度肝を抜かれました。
 何と言っても一番の見所はラストの大殺陣! 総勢二百人(と何かに書いてありました)相手の縦横無尽に高さも含めた大殺陣は、圧巻。これだ
けでも十分見る価値あり!
 オダギリジョーがすごい役(あまりのことにあごが外れそうになりました)で出てるのもツボ。
あ と、トレンディードラマ等で人気の若い男優たちが九人も出てます。みんな忍びの子の役でボサボサ頭に小汚い格好をしてるので、テレビ放送
で見直しても探すのは至難の業でしたが。(05.7.2)


阿修羅城の瞳 (2005年)

 過去二回、松竹と劇団☆新感線のタッグで舞台公演された作品。たまたまその当時、ポスターを見てかなり見たくなったのですが、少々高額なチ
ケット代の前に挫折。なので映画化の話を聞いたときには、期待しまくりでした。
 内容は時代劇というよりも、鬼を専門に退治する鬼御門の人たち、対、鬼(妖怪みたいなもの)のチャンバラアクション + 恋愛。私のもっとも好
きなジャンルであります。
 主役の市川染五郎は過去二回の公演でも同じ役を務めたこともあり、殺陣も演技も安心。
ヒロイン、宮沢りえもさすがと思える美しさでしたよ。
 でも、堪らなく良かったのは、渡部篤郎。強さを追い求めるダークヒーロー役が、もうがっちりと似合っていて、表情も殺陣も生き様も、めちゃめち
ゃかっこよかったです。ファンの方、必見!必ず満足させてくれます。(05.7.3)


怪 七人みさき (2000年)

 京極夏彦の同名小説を、作者自らが脚本・企画を請け負った意欲作。元々WOWOWで「怪」シリーズとして放送されたうちの一作を、劇場版とし
て公開。
 CG等の映像処理はやや稚拙な感じがするものの、京極作品らしい雰囲気はとてもうまく表現できていると思います。妖怪の仕業だと噂されてい
る事件は、実は人間の仕業で、妖怪よりも人間の悪行のほうが怖いという、ドロドロした感じは秀逸。特に城主・北林弾正(四方堂亘)と、その護衛
兼愛人のお姉ちゃん二人の自堕落振りが最高です。
 主要登場人物の御行の又市(田辺誠一)、山猫廻しのおぎん(遠山景織子)、山岡百介(佐野四郎)はイメージぴったり。原作ファンも満足できる
はず。反対に原作知らない方でも、ミステリーホラー好きの方なら楽しめる一品だと思います。(2005.9.22)

 
北の零年 (2005年)

 淡路島にあった小藩が北海道移住を命じられるという、大河ドラマ的な悲劇の物語。
 娯楽作品なのに、主役の母娘・志乃(吉永小百合)と多恵(石原さとみ)に次々と不幸が降りかかるシビアなリアリティのある作品。しかもハリウッ
ドに認められた大物俳優・渡辺謙を悪役に、その他豪華キャストも、その地位からは考えられないかっこ悪い役に起用するという、どこまでもシビ
アな世界。その中でただ一人、漫画のキャラクターのようなリアリティのないかっこよさのアシリカ(豊川悦司)。ずっと、浮きっぱなしの彼ですが、ク
ライマックスでは、彼のそのエンタメ存在に、作品すべてを巻き込みます! そのまま、エンディングか!?と思いきや、嵐のようにエンタメ風は去って
いき、元のリアリティ世界に…。そのギャップが大河でもない、エンタメでもない、不思議な魅力を放っています。
 吉永小百合が渡辺謙の妻で、美人のヒロインで全編通してもてまくり。年齢を考えるとむちゃくちゃなんですが、知らなければ気づかないぐらい、
役に似合ってます。本当にすごい人です。
 撮影は本物の冬の北海道(気温マイナス15度!)で行われたそうで、本当に大変だったようです。(05.8.18)

 
清須会議(2013年)

 歴史上初、会議で歴史が動いたといわれる『清須会議』の五日間を、原作・脚本・監督の三谷幸喜が、総勢26名の豪華オールキャストを使って
描いた作品、…という触れ込みで公開されましたが、歴史に詳しい方ならご存じのとおり、羽柴秀吉と柴田勝家の一騎討ちがメインです。
 役所広司演じる柴田勝家が、もうイメージそのままで、力馬鹿の一直線な困ったおっさんです。しかも織田家筆頭家老なものだから、ジャイアン
的。一方の大泉洋演じる羽柴秀吉は、これまたイメージそのままの、頭のいいサル。どちらも憎めないキャラクターで、この二人が織田家の権力を
巡って、影響力のある人物に近づいて懐柔したり、衝突したりと、裏に表に根回し工作合戦。
 歴史好きを標榜する三谷幸喜の作品だけあって、登場人物たちが通称名(藤吉郎や権六など)で呼び合っていたり、イメージに合うよう特殊メイ
クしていたり、その他小ネタ盛りだくさんの、知識があるとより楽しめる作品となっています。あと、『ステキな金縛り』の更科六兵衛(西田敏行)が出
てきたり、三谷作品らしい遊びの部分もちゃんとふんだんに盛り込まれていて、時間経つのを忘れる面白さもばっちりです。(13.10.28)


斬る (1962年)

 三隅研次監督と市川雷蔵コンビの「剣三部作」の第一作。原作は柴田錬三郎。
 悲劇の子・高倉信吾は、独自の構え、「三弦の構え」を編み出すほどの剣士。市川雷蔵演じる彼が、ストイックで天才的で、本当にかっこいいで
す!
 ストーリーも、関わる人たちが次々に死んでいくので悲劇ですが、暗い感じはなく、メリハリが利いてます。短い作品ながら見ごたえはしっかりあっ
て、途中もだれることなく最後まで一気に時間を忘れて見れます。
 殺陣シーンにSEがないというのが、今見ると反対に斬新だったり。BGMも少なめですが、それでも迫力十分なのは、すごいことです。かなりの
有名作品ですし、今見ても面白いので、未見の方は後学のためにもぜひどうぞ。(06.2.24)

 
くノ一忍法帖V 秘戯伝説の怪 (1993年)

 妖艶な時代劇として有名な、ご存知『くノ一忍法帖』シリーズの第三弾。原作は山田風太郎の『秘戯書争奪』。
 第十三代将軍・徳川家定が性的に問題があり子ができないということで、代々天皇家の御典医を勤める家に伝わる性に関した様々な奥義が記
された秘伝書を巡って、盗む側の甲賀くノ一と守る側の伊賀忍者が技比べ。ちなみにその秘伝書、中身は体位の解説。秘伝書自体は無理でもせ
めて内容だけでも盗みたいくノ一と、所詮中身は男の忍者が対決の度に絡み合う!ってことで、絡みシーンはとにかく多いです。普通にテレビでも
放送できる映画ですので、演出は控えめですが。あの忍法・乳時雨や、蟹泡地獄が出てくるのもこの話。
 メインストーリーが敵味方に分かれてしまった純愛カップルだったり、男嫌いのおぼこくノ一と、女が怖い陰間(?)忍者がでてきたりと、話も面白
いのでおすすめです。オチもいい感じですし。(06.1.11)

 
くノ一忍法帖W 忠臣蔵秘抄 (1994年)

『くノ一忍法帖』シリーズ第四弾。原作は山田風太郎の『忍法忠臣蔵』。
 タイトルどおり忠臣蔵と絡めた筋立てで、赤穂浪士を挟んで忍者たちとくノ一の技比べ。討ち入りを決行しようとする赤穂浪士たちを色仕掛けで
腑抜けにさせてやめさせろという密命に、主だった浪士の元にくノ一たちが忍び寄るというストーリー。
 密命の内容が内容だけに、男を魅了する忍法が盛りだくさん。くノ一と言えば色仕掛けでしょう、という人にはもっともおすすめです。ちなみにVで
さえ出てこなかったモザイク掛けが出てくるのも、ポイント。
 忠臣蔵に詳しい人から見れば、むちゃくちゃな展開もあるのですが、まあそこは面白がって見るのが吉です。(06.1.15)

 
GOEMON (2009年)

 天下の大泥棒・石川五右衛門を、紀里谷和明監督独自の解釈と世界観で、豪華キャストを使い、大胆に描いた作品。この、「独自の」というのが
非常に際立っており、単純に時代劇の枠の中に入れていいのか、迷います。
 まず登場人物の衣装、そして舞台装置からして、規格外。特に茶々姫は、どこの西洋貴族だ?みたいなことになっています。派手好きと言われ
た豊臣秀吉の衣装もすごいすごい。安土城に至っては、もはやファンタジー世界。でもうまく画像処理されていて、浮くことなく、不思議な世界観を
作っているとこは、さすがです。
 そしてストーリーも、歴史を大胆解釈。本能寺の変の裏に隠された密約から始まって、関ヶ原の戦いまで、もう怒涛の展開。信長、秀吉に始まり、
家康、石田光成、明智光秀と、武将も多数、これまた独自世界観で登場。あまりに独自解釈過ぎて、話が進むにつれ、歴史に齟齬が出てきてしま
うのは御愛嬌。
 そして忘れちゃいけないアクション。五右衛門役の江口洋介が文句なしにかっこよく、派手な動きでアクションを次々と決めていく様子は爽快、ま
るでよくできたゲームのようです。たくさん出てくる常識を超えた忍者どおしの戦いも、CGをふんだん使って、見ごたえあり。
 大胆に作っている分、ツッコミどころも大盛り満載なんですが、ストーリーが大きい割に、主役の五右衛門のキャラクターが魅力的に、丁寧に描
かれているので、そこを気にしなければ、楽しめる娯楽大作だと思います。作品としての完成度は、ピカイチです。
 個人的には、姫とお付きの忍者という設定がツボでした。(09.5.30)


座頭市 (2003年)

 ベェネチア映画祭で賞を取った北野武監督・主演作品。
 全体的にマンガチックで、市と好敵手の服部源之助(浅野忠信)がバカバカしいほど強くて気持ちいいです。斬られた後も血しぶきが派手に飛ん
だり、斬られた腕が飛んだりと、娯楽チャンバラ色満載。見方によっては残虐なんですけどね。
 音楽もテンポ良くって、全体的にこ気味良く見れると思います。
 一見、単純なストーリーと見せかけて、たまねぎをむくように、どこまでも悪役の黒幕がいるのがちょっと面白かったです。(05.11.10)

真田十勇士 (2016年)
 
 映画と舞台を同時期に公開、というチャレンジ精神旺盛な作品です。
 九度山に流されている真田幸村(加藤雅也)の前に、一人の男が現れる。数々の伝説を持つ幸村だが、実は見るからに頭も腕も立ちそうな風貌に周りが勝手に思いこんだ結果で、本当はかなりの凡人。それを知った男・猿飛佐助(中村勘九郎)は、どうせならその嘘を本物にしてしまおうと持ちかける。こうして、真田幸村を伝説に仕立てあげる佐助の壮大な作戦が始まります。
 というわけで、主役は真田十勇士の一番、猿飛佐助。面白おかしく生きたいと、抜け忍になった佐助が仕掛ける大博打に巻きこまれた、霧隠才蔵(松阪桃李)以下、十勇士の伝説作りストーリーです。
 堤幸彦監督らしい、おふざけとカッコよさと、ちょっぴり恋愛も詰まった、壮大なストーリーの娯楽大作。痛快な大阪の陣と、さらにそれに匹敵する痛快な大逆転劇に、ツッコミながらもワクワクが止まりませんでした。(16.10.24)
 
SAYURI (2005年)

 花街を舞台に一人の天才芸者・さゆりを描いた作品。原作はアーサー・ゴールデンの『さゆり』。
 洋画なので、違和感あるだろうなとは思っていたんですが、出てる人のほとんとが日本人な上、主役のチャン・ツィイーが見事に日本人っぽくて、
反対に日本語でしゃべらないところに違和感を感じたぐらいでした。とにかく出てくる女性たちが、本当にとてもきれいで、さすがでした。花街ものは
ここが本当に重要ですからね。さゆりの子供時代を演じた大後寿々花(『北の零年』で天才子役と言われた)も見事にいじらしいです。
 実際に話している英語と字幕を比べると、字幕の方が高度な表現になっているのが笑えました。役名もいちいちおもしろいですし(「おかぼ」という
娘が出てきて変な名前だと思っていたら、「ミセス・パンプキン」と呼ばれてたり)。戦中戦後ということを考えても、いろいろ考証のツッコミどころは
ありますが、あくまでファンタジーの世界として作られているらしいので、そこは目をつぶってあげましょう。
 原作付のせいか、日本ものらしいストーリー展開で、特に「好きなら奪い取れ」が合言葉のようなアメリカ(偏見ですか?)が作ったとは思えないぐ
らいの、ひらすら一途で、観客をじらしまくるさゆりの恋心が見事です。まあ、さすがアメリカものというべきか、悲劇ばっかりでなく、笑いも程よく入
ってますが。ただその忍ぶ恋の描き方がうまい分、ラストの一部がとても残念でした。日本人は人前であんなことしませんよ!(06.1.5 東條弓月さ
まリクエスト)

 
SINOBI (2005年)

 400年の昔から人智を超えた忍の術を伝えてきた隠れ里、伊賀の鍔隠れと甲賀卍谷。徳川家康によって太平の世が築かれた今、その二つの里
から選りすぐった五人の忍たちによる殺し合いが命じられる。
 元々、犬猿の仲だった二つの里。しかし、両里の頭領の孫であり時期頭領の朧(仲間由紀恵)と甲賀弦之介は隠れてお互いに将来を誓い合った
仲だった。という、ロミオとジュリエット、忍者版。
 原作は山田風太郎の『甲賀忍法帖』ですが、あんまり沿ってません。原作ファン、バジリスクファンは別物としてみた方が無難。
 薬師寺典膳(椎名桔平)の悟りきった哲学と、武器がかっこいいです。(本当は金輪はあんな風に使わないんですが)
 朧が心身ともに、強かっこいいです!強い仲間由紀恵が好きな方は見て損なし。特にクライマックスは感動しました。一方の弦之介は女々しい感
じ。忍の世界も女の方が強いというのが裏テーマの作品(?)(05.10.12)
 

忍びの国 (2017年)
 戦国時代、伊賀は特定の領主を持たず、小さな城が乱立し、小競り合いを続けていた忍びの国だった。人の心を持たず、銭と己の欲でのみ行動していたその国の者たちは、虎狼の輩と呼ばれていた。そこに隣国・伊勢を手中に収めた織田信長の次男・信雄が攻め入る。
 第一次天正伊賀の乱を描いたこの作品。ジャニーズのアイドルを起用した忍者アクション映画でもあるのですが、これが時代考証もばっちり、忍者の本質もしっかりと描き、戦国時代の弱肉強食の悲哀もあり、人道と欲望の対決が隠されたテーマだったりと、本当に奥の深い、どんな立場の人が見ても興味深く感じられる作品でした。もちろん、アクションも盛りだくさんですばらしいので、単純に最強の忍びが大活躍して、すごく強い武将や忍者と戦うアクション映画としても楽しめます。
 原作と脚本は『のぼうの城』の和田竜。監督は『殿、利息でござる!』の中村義洋。このスタッフと聞けば、痛快で骨太で面白くて心揺さぶられる作品だということが伝わるのではないでしょうか?
 原作小説はストーリーはほぼ同じですが、登場人物が小説の方が少し多く、人物描写に深みがあります。歴史小説が好きな方にはこちらもおすすめです。(17.8.28)

ZIPANG (1990年)

 高嶋政宏主演のアクションアドベンチャー時代劇。監督は、林海象。
 派手なこと好きの剣士・地獄極楽丸は、永遠の時を生きる戦士と知り合って、彼の恋人を救うため、彼の故郷ジパングへついて行く。
 とにかくはちゃめちゃ痛快時代劇アクション大作。地獄極楽丸の仲間たちも、彼を狙う鉄砲百合姉さんも、登場人物すべてが癖のある人たち。そ
れが、別の国(?)へ行って、土偶ロボと戦ったり。大学の後輩に薦められて、一時サークルの話題を独占したテンションの高い一作。こういう一歩
間違えば戦隊ヒーロー物のようなノリのアクション娯楽作品が好きな方には、超おすすめです。
 三上博史が、ふんどしいっちょで好演。愛のために走り、愛のために戦います。その肉体美にメロメロ。そのほかにも、佐野史郎や平幹二朗とい
った濃い役者陣が揃っています。
 残念ながらDVDは発売されていないので、入手は困難ですが、ビデオとLDは出てますので、ぜひ! 私は未読ですが、原作もあるようです。(05.
9.16)

 
写楽 (1995年)

 謎の浮世絵師・東洲斎写楽の誕生と結末を独自の解釈で暴いた作品…のはずなんですが、写楽の話と言うよりは、写楽にされてしまった青年を
中心とした、当時の芸術家たちの裏話という感じです。
 真田広之演じる主役の青年は、絵がうまい軽業師で、とにかく身の軽い男。絵を描いてるシーンよりも暴れているシーンの方が多いと思うぐら
い、アクションたっぷり。宙返りぐらいなら、いつでも平気で打てそうな役で、タイトルから想像するイメージとは違って、真田広之の最大の魅力であ
る体術がたっぷり楽しめます。
 登場人物は、歌麿に代表される浮世絵師はもちろん、十返舎一九にデビュー前の滝沢馬琴、歌舞伎役者に、辻芸人、版元から吉原の花魁ま
で、同時代の広い意味での芸術に携わる人々がずらり。多くの武家社会を描いた作品とはまた違った世界観の時代劇で、時代劇好きな人だけで
なく、江戸の芸術好きな方にもおすすめの作品です。
 役だけでなく、それを演じる役者陣も、フランキー堺や佐野史郎、片岡鶴太郎といった、癖がありつつもうまい男優たちに、 葉月里緒菜の花魁
姿に、艶っぽい岩下志麻の姐さん姿など、なかなか豪華で見ごたえあります。
 見方によって芸術作品にでも、娯楽作品にでも見れる作品。広くおすすめなのですが、DVD化されていないようなのが残念です。(06.5.25)

 
十三人の刺客 (2010年)

 1963年に公開された同名映画のリメイクです。
 江戸時代末期のこと。老中就任が決まっている明石藩主・松平斉韶(稲垣吾郎)は、暴虐の限りを尽くす極悪な殿様であったが、将軍の弟である
ために、誰も処罰どころか、老中就任を取りやめにすることすらできなかった。このままでは世の中が乱れると憂いた老中・土井(平幹二朗)は、ひ
そかに御目付役・島田新左衛門(役所広司)を呼び、斉韶暗殺を命じる。相手は一藩の藩主であり、将軍の弟。容易に討てる相手ではない。新左
衛門は腕がたち、自分に命を預けてくれる者を探す。そして集結した13人の刺客たち。彼らは斉韶の参勤交代の行列を狙うため、宿場町を丸ご
と買い取り要塞化する。一方彼らと戦うは、新左衛門と剣の腕を競った斉韶の側近・鬼頭半兵衛(市村正親)が率いる数百人の護衛たち。生き残
るのは、天下のために無謀な戦に立ちあがった男か、暴君と知りながらも武士とは主君に忠誠を尽くすことという信念を貫く男か。
 一番の見どころは時代劇史上最長とも思える、ラスト50分に渡る死闘。13人で大軍を相手にするために、要塞化した落合宿に施した工夫の
数々から始まって、とにかく死闘に続く死闘。血と泥にまみれながら、リアル志向の侍たち命のやり取りがそこここで。しかしうまく盛り上がりを作っ
てあって、全く飽きません。そしてお祭り映画かと思うほどに、豪華な役者陣たち。主役の役所広司が文句なしにいい男なのはもちろんのこと、意
外にもはまっていたのが残虐殿様の稲垣吾郎。考えられる限りの酷いことを顔色一つ変えずに行う異常さは、アイドルグループSMAPの一員とし
て大丈夫なのかと思ってしまうほどでした。
 久々に文句なしに大作といえる映画です。(10.10.25)


助太刀屋助六 (2001年)

 とにかく主演の真田広之が動く動く。画面の中を狭しとちょこちょこと走り回って飛び跳ねて、元気いっぱい。とても40才には見えない。
 主人公・助六はタイトルそのままの、他人の敵討ちを手伝う助太刀屋。侍じゃなくて、渡世人姿。だから剣法で助太刀じゃなくて、石投げたりとな
んでもあり喧嘩殺法。それが久々に故郷に帰ってきてみたら…。
 彼の幼馴染のお仙(鈴木京香)も田舎娘なのだが一癖あるなかなかの娘。どうやら両思いっぽいのだが、設定をみてると二人ともどう考えても二
十代。これが画面上では違和感なく見えてしまうのだから、二人の演技力と肉体年齢の若さに乾杯。
 全部で90分弱という、勢いで見れてしまう長さなので、すかっと大暴れを見たいときにはぜひ。(05.8.3)

 
戦国自衛隊 (1979年)

 原作は半村良の同名小説。戦国時代に自衛隊がタイムスリップしたら…、という話。
 時代劇に入れてもよいのでしょうか、と思う作品。理由はだれもが予想して期待する、戦国武者たちと自衛隊との合戦は後半のみで、前半は自
衛隊員たちの青春グラフティ(『1549』の原作者・福井晴敏いわく)なので。
 千葉真一、初アクション監督作品というだけあって、はじけてます! 楽しげです! 主役の伊庭義明は本人そのまんまじゃないのかと思えるキ
ャラクターだし(笑)
 JACのスター、真田広之もちょこっとした役ですが、アクションたっぷりで出てます。忍者もJACアクションたっぷりで少しだけですが出てきます
よ。JACファンは見て損なしです。
 長尾景虎(渡瀬恒彦)が、後の上杉謙信だと分からなかった勉強不足の流之介でした。(05.7.7)

 
戦国自衛隊1549 (2005年)

 原案・半村良、原作・福井晴敏。もともと映画化を見越して書いた小説だそうです。
 本物の自衛隊が全面協力とあって、自衛隊内は端々にリアリティがありました。
 さすがは超エンタティーメント作家の福井春敏原作だけあって「戦国時代に自衛隊がタイムスリップをしたら?」で考えられるワクワクする要素が
たっぷり詰め込まれてます。
 主演の江口洋介がさぞかっこいいだろうとは思っていたのですが、それよりも注目だったのは、北村一輝! 『北条時宗』以来、「男前で体格もい
いんだけど極悪人顔だなあ」と思っていた彼。今回の飯沼七兵衛役でその悪人顔と体格がめちゃくちゃはまっております!現役の戦国武者だも
の、あれぐらい覇気がないとね。
 戦国武将もしっかり出てくる(名前だけの人も多いが)ので、歴史ファンも大丈夫。歴史苦手な方も『国盗り物語』のあらすじが分かってるぐらいの
知識があったほうが、より楽しめると思います。
 時代考証等にうるさい方は、娯楽作品だと思ってツッコミは止めましょう。気になって楽しめなくなります。でも、どうしても気になったことを一つだ
け。帝の勅旨は地べたに置いちゃ駄目ですよ、藤介(中尾明慶)くん。
 上で紹介した『戦国自衛隊』とは「自衛隊が戦国時代にタイムスリップする」という点以外、共通点はないのでまったく別々の作品として楽しめま
す。(05.7.8)

 
丹下左膳 百万両の壺 (2004年)

 ご存知、隻眼隻腕の剣士・丹下左膳を、豊川悦司が演じた作品。全体的に明るく、コミカルで、所々に入る擬音のSEがかわいらしい、どちらかと
言うと、若者向けな、女性や子供に受けそうな仕上がりです。
 丹下左膳は口が悪く、雇い主のお藤に子供っぽい憎まれ口ばかり叩く困った人だけど、実は人情家のいい人。和久井映見演じるお藤も、負けず
劣らず口が悪い女で、豊川悦司の丹下左膳と、常に口ケンカの掛け合いがいい感じです。
 この二人も面白いのですが、秀逸だったのが野村宏伸。大名・柳生家の次男坊で、ポヨヨ〜ンとしたダメ侍のダメ亭主、でもどこか憎めないお坊
ちゃん婿養子を好演。豊川悦司といい、この野村宏伸といい、男っていくつになっても子供よね、な男の描き方がうまいです。本当の子供のチョビ
安の方がしっかりしてたりして。
 ストーリーも山あり谷ありで面白いのですが、丹下左膳ってこんな作風でしたっけ?(06.10.12)

 
超高速!参勤交代 (2014年)

 タイトルからして、なんちゃって時代劇かと思いきや、本物の娯楽時代劇でした。参勤交代を終えて江戸から八日かけて国元に戻ったばかりの磐城・湯長谷藩に、幕府から言いがかりがつけられ、申し開きに五日以内に参勤せよとのお達しが下る。時間もないが、すぐに参勤交代ができる
だけの貯えもない。だが行かねば藩が取りつぶしに。ないない尽くしのピンチに、小藩の力を見せつけてやると、知恵と武力と底力で立ち向かう。
 庶民的でお茶目な藩主に佐々木内蔵助、知恵者の家老に西村雅彦、凄腕の自由人な抜け忍に伊原剛志、冷酷非道な老中に陣内孝則、威勢
のいい女郎に深田恭子と、キャストはみんなはまり役です。
 時間と金の節約のため、山の中を走っていくという選択をした湯長谷藩士たちに、なぜかお庭番が襲いかかる。そして別行動の藩主には、恋の
予感が立ちふさがる。全体に漂うコメディのノリと、要所要所に入る時代劇ならではの厳しい現実、そしてアクション重視の殺陣、さらにラブロマン
ス。笑って、ハラハラドキドキ、ほんわかの、娯楽時代劇映画の面白いところがたっぷり、それでいてバランスよく詰め込まれた良作です。佐々木
内蔵助がコメディ得意なのは知っていましたが、まさか西村雅彦があんなに面白いとは思いもしませんでした。(14.8.10)

 

超高速!参勤交代 リターンズ(2016年)

 行きが参勤なら、帰りは交代、というわけで、帰路に着いた湯長谷藩の一行。しかし路銀は行きで使い果たしてしまっていた!
 というわけで、前作のラストからちょうど一か月後から始まる今作。なんとか帰る算段がついたところに、国元で一揆が起こったとの知らせが。早く戻って鎮圧しないと、藩がお取りつぶしになってしまう! 今度は行きの倍のスピードで帰らないといけないことに…。
 前作ではタイトルどおり参勤交代のみの話でしたが、今作では帰り着いた後も困難に継ぐ、困難が待ち受けています。そしてその裏には大きな陰謀が! 前作より話のスケールもアップして、コメディとほんわかとハラハラドキドキのアクション要素はそのまま、プラス、ラブコメ要素も加わって、さらに面白くなっています。
 最初から二部作にするつもりだったではないかと思うぐらい、きれいに話がつながっていますので、続けて見るのがオススメです。(16.10.18)

 

 
憑神(2007年)

時は幕末。真面目で才覚もあるのに、出戻り婿で無役の次男坊・別所彦四郎。腐った毎日を送っていた彦四郎は、ある夜、酔った帰り道に見つけ
た三巡稲荷に願いをかけるが、現れたのは神は神でも貧乏神。しかも三巡というだけあって、そのあと厄病神、死神と続くという。
妻夫木聡演じる彦四郎が、神たちも思わず情けをかけたくなる好人物で、見てて好感が持てます。しかも彼を取り巻く登場人物たち(香川照之、
佐々木蔵之介、石橋蓮司、佐藤隆太など)も、一癖も二癖もあるいかにも人間らしい人たちばかり。しかもそこに幕末のご時世も絡んできて、話は
いうことなしの面白さ。神様たちも、西田敏行に赤井英和、森迫永依と、バラエティーに富んでます。
けっして笑えたり、派手なストーリーではないけれど、見たあとは満足できる上作です。
原作は浅田次郎。米米CLUBの主題歌と、それにのって文字が踊るエンディングが楽しいです。(08.5.16)


椿三十郎 (1962年)

 黒澤明監督と三船敏郎タッグの二作品目。白黒だし、こう書くとなんだかお固い作品のように思えますが、その実、勧善懲悪な軽いノリで楽しく見
れる痛快娯楽作品です。
 舞台はお家騒動の起こっているある藩。悪政を正そうと立ち上がった、正義に燃える九人の若侍たち。しかし若いがゆえに、無謀で暴走気味。
それを見かねて手助けをかって出たのが三船演じる素浪人。
 庭に咲いている椿を見て、「椿三十郎(もうすぐ四十郎)」と名乗ったその浪人は、姿はむさくて、口も悪いが、剣の腕は超一流の上に、頭も切れ
る大物。藩の重役たちを相手に、知恵を使って立ち向かい、たった十人で勝ちを収めちゃう。
 椿三十郎の男らしいかっこよさもさることながら、二転三転するストーリーも目が離せない面白さです。絵的にも楽しい、クライマックスの縛られて
いる三船と、じいさん三人が必死に椿を落とすシーンは傑作です。
 25年も前に作られたとは思えない、何も考えずに見れる面白い作品。あっという間に感じる96分間です。(07.5.24)

 
天地明察 (2012年)

 江戸時代初期、日本では800年も前に中国から輸入した暦を使い続けていた。そのために、実際の日蝕や月蝕の起こる日が暦の予測と一日か
ら二日のズレが生じる事態となっていた。その事態を正そうと、観測と計算によって日本独自の暦を作くることに挑んだ男・安井算哲(後の渋川春
海)の物語です。
 碁打ちの算哲(岡田准一)は、囲碁の腕もさることながら、算術が大好きで、幼少から天体観測を趣味としている変わり者。会津藩主・保科正之
(松本幸四郎)の働きで、北極出地(北極星の位置を測り、その場所の正確な位置を計る)の観測隊に加えられる。そこで天体の理をつまびらかに
したいと夢を持った算哲は、水戸光圀(中井貴一)から新しい暦を作ることを命じられる。しかしその道は楽ではなかった。算哲が選ばれたことに
やっかみを持つ算術学者や暦の改ざんに不満を持つ者、暦を秘法としておきたい朝廷、そして出て来る誤謬、数々の困難が算哲たちの前に立ち
ふさがる。
 算哲に新しい学問の世界を教えてくれる先達に、山崎闇斎(白井晃)、建部昌明(笹野高史)、伊東重孝(岸部一徳)、関孝和(市川猿之助)。彼
らの教えを算哲は素直にどんどん吸収していく。そして算哲を支える愛妻・えん(宮アあおい)。彼らの温かい視線の中で、一途な算哲の執念が偉
業を成し遂げる。
 くすりと笑えて、応援したくなり、そして最後に感動する、武士でも公家でもない青年が主役の、異色の天体時代劇、まさにご明察な作品です。
(12.10.8)

 

殿、利息でござる! (2016年)

 約250年前の仙台藩吉岡宿。宿場町にかけられた重税に苦しみ、夜逃げする者も出る現状に心を痛めた造り酒屋の穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は、村一番の切れ者・茶師の菅原屋篤平治(瑛太)に相談。考え抜いた二人は、お上に金を貸し、その利息を宿場の税金にあてることを思いつく。村の肝煎・遠藤幾右衛門(寺脇康文)や、大肝煎の千坂仲内(千葉雄大)にも相談し、お上に貸す金・千両を作るために、出資仲間を探す。

 私財を投げ打ち、ひたすら宿場のためを思って一途に奔走する十三郎だが、ひとつだけ彼の心に黒い影を落としている過去があった。それは父の先代・浅野屋甚内(山崎努)から養子に出され、弟(妻夫木聡)が浅野屋甚内を継いだことだった。村では二代続けてケチな金貸しだと評判の浅野屋だが、それには訳があった。

 宿場のために私財から大金を投じ、そのことを口外しないという「つつしみの掟」を自らに課した庶民たちの、実は実話な話。日本にはこんな素晴らしい人がいたんだと、誰かに語りたくなること間違いなしの作品です。原作は、『武士の家計簿』の磯田道史の「無私の日本人」収蔵の『穀田屋十三郎』。鑑賞後の印象は美談ですが、鑑賞中はクスリと笑えるシーンも多く、エンターテインメントとして楽しめる作品です。(16.5.23)



どら平太 (1999年)

 上と下の癒着で悪がはびこる町の奉行に、江戸から赴任してきた「どら平太」こと、望月小兵太。の、はずが…、「新任のお奉行様は本日も御出
仕なし」と奉行所の日誌に毎日書かれるとおり、いつまで経っても奉行所には現れない。
 で、当の本人は何をしてるかと言えば、自ら潜入、自ら調査、そして人知れず事件解決!裃(かみしも)なんて絶対着ない、着流しのだらだら浪人
風情の、実はすごいやり手のどら平太を、「三匹が斬る!」の役所広司が怪しくすかっと爽快に演じています。最後にはちゃんと大立ち回りもあり
のサービス。
 新任のあいさつに待てども待てども来ないお奉行様が、裏でこっそり悪人退治という面白筋書きなんですが、欲を言えば映画よりもテレビで連続
ドラマで見たかったな、という感想を持ちました。全11話ぐらいで、毎回、頭と終わりは奉行所の場面で「今日こそ来られるかなあ」と噂で始まり、
「本日もご出仕なし」と日誌に書かれて締める、ってな感じで。(05.12.18)

 
どろろ(2007年)

 マンガ界の巨匠・手塚治虫原作の同名マンガの実写映画。女の子であることを隠して旅をする泥棒の少年・どろろと、赤ん坊の時に妖怪に取ら
れた体の四十八箇所を取り返すために妖怪と戦う青年・百鬼丸。この二人の主役を演じたのが柴咲コウと妻夫木聡。百鬼丸はともかく、どろろを
大人の女性が演じるのは無理だと見る前は思っていたのですが、どうしてこれがなかなか、しっかり少年していて、女くささのない少年らしいかわい
らしさ満載のどろろでした。百鬼丸も、原作のイメージよりは年上(二十歳)なんですが、その分男らしさと落ち着きが出ていて、期待を裏切らない
かっこよさです。
 原作のイメージを大事にした作りになっており、原作ファンも満足できること間違いなしです。エピソードてんこもりですが、展開が早く、長丁場でも
だれない面白さです。戦闘シーンは、妖怪相手なのでCGが多く、また一撃必殺なのでアクション映画にしてはもの足りない感じですが、妻夫木聡
の運動神経が良いのでそんなに気にならないと思います。
 道徳的にどうかと思うエピソードもあるので、お子様にはおすすめできません。R12指定ですし。でもその奥にあるテーマはとても大事なことなの
で、そこを読み取れるぐらいの年齢になったらぜひ見てほしいと思います。また、妖怪ものだけあってグロテスクさもかなり高いので、そういうのが
嫌いな方は気分が悪くなると思うので、見ないほうがいいと思います。でもそういうのが好きな方には、心底おすすめです。全体のイメージとしては
暗くなく、爽快感たっぷりで、見た後も気持ちよくなれるはず。物語は半分までしか描かれていないので、おそらく続編が作られるはず。楽しみで
す。(07.3.18)

 
NEW仁光の受難(2017年)
 勤勉で真面目な修行僧・仁光(辻岡正人)の悩みは、なぜか女人に異常にモテること。托鉢に行けば村の女性たちに取り囲まれて、修業にならない。僧にとって女犯は大罪。僧と言っても、中身は男。女たちにすり寄って来られれば、煩悩を断ち切るのも難しく、真面目な仁光の苦悩は深くなるばかり。しかも苦悩すればするほど、モテ度が上がり、だんだんと異様なほどに…。自分を見つめなおすため、修業の旅に出た仁光は、山女(若林美保)という男性の精気を吸い取る妖怪と出会う。
 庭月野議啓監督の自主製作映画なのですが、数々の国際映画祭で大評判となった作品です。自主制作とは思えない、完成度の高さ、音楽の良さ、時々はさまれる和風アニメーションの程好い脱力加減と的確さ、どこを取っても素晴らしく、クスクスとずっと笑って観てられるエンタメコメディ異色時代劇映画です。自主制作ゆえに、観られる機会はなかなかないとは思いますが、絶対に観て損はない作品です。75分と短いですし。あと、PG12で女性の裸体がたくさん出てきますが、いやらしさはないので女性が見ても大丈夫だと思います。少なくても私は平気でした。
 真面目に作られた、とっても面白い怪奇譚コメディ、ぜひ予告編だけでも観てください。(18.1.29)
 
のぼうの城(2012年)

 城門をくぐり、田んぼのあぜ道を疾走する騎馬。八年前の戦でその勇猛ぶりから『漆黒の魔人』と恐れられ、平時も成田家家臣一の実力者であ
る丹波(佐藤浩市)を、人々は尊敬の目で見送る。その彼が探しているのは、幼馴染の『のぼう様』こと、この忍城城主の甥の成田長親(野村萬
斎)。天下統一を目前にした豊臣秀吉(市村正親)の大軍勢が、主君筋である北条家に迫っていたのだ。
 脚本家の登竜門といわれる城戸賞を受賞した和田竜の脚本(後に小説としても発表)を、八年の歳月をかけて映画化したのがこの作品。時間を
かけただけあって、そのスケールの大きさは戦国合戦映画の名に恥じないものとなっています。とくに城が浮き島のようになる水攻めは圧巻。ま
た、丹波の単騎掛けの無双の槍使いは文句なしにかっこよく、策略の決まった瞬間の爽快感も最高です。戦国ものと聞いて、見たいと思える要素
は全部入っていると言ってもいいと思います。
 木偶の坊だから「のぼう様」と呼ばれる長親役に野村萬斎と知った時は、イメージが違いすぎると思いましたが、さすがは日本の喜劇といわれる
狂言の第一人者、すっとぼけているけど、憎めないのぼう様を見事に体現してくれました。狂言で鍛えられた肉体から生み出されるユーモアの
数々はさすがです。その他のキャストも、全員が生き生きとしていて、本当にはまり役。敵となる石田三成(上地雄輔)も、とかく二流に描かれること
の多い三成ですが、器の大きい人物として描かれていて好印象です。病にかかる前の大谷吉継(山田孝之)が出て来るのもなにげにツボです。
 戦国ものは劇中の爽快感とは変わって、見た後は暗い気分になるものも多いのですが、この作品は気持ち良くなること請け合いです。
 まだ日本の歴史にこんな面白いエピソードが残っていたのかとうれしくなること間違いなしの、エンターティメント大作。二万対五百の超兵差の合
戦を見逃すな!(12.11.12)


幕末純情伝(1991年)

「沖田総司はBカップ!?」という強烈なキャッチコピーのとおり、ここでの沖田総司は女の子! そして土方歳三と坂本竜馬で、三角関係に!
 という、同人誌並みのむちゃくちゃ設定のラブコメディ映画なんですが、これが新撰組の悲劇や、竜馬の野望、そして青春と恋愛と生き様と時代
に翻弄される若い力を、うまく取り入れて描かれていて、最後にはほぼ史実どおりちゃんとまとまっているのが不思議な魅力です。前半の若さゆえ
の暴発みたいな軽いノリと、後半の三者三様の強い思いの激突が、絶妙のバランス。公開時は角川の夏の青春映画(後にホラー映画へ移行)二
本立てで、『ぼくらの七日間戦争2』とセットだったのですが、一本でも十分すぎる見ごたえがあります。
 女であることを隠して入隊、でも剣の腕前は新撰組一!という沖田を、牧瀬里穂がさわやかかわいくかっこよく演じています!素直じゃないけど、
もう本当にむちゃくちゃかわいいです。
 そんな沖田をいろんな意味で追っかけまわす竜馬を、渡辺謙。「はじめにLOVEありきじゃき」は竜馬の性格ともぴったりで名言。
 そして硬派で堅物な土方を杉本哲太。これがまたすごくかっこよく見えるから不思議。
 その他にも、新撰組も攘夷派も幕末のヒーロー大集合でいい意味でやはり同人誌っぽいお祭り映画です。二種類あったポスターの一つ、猫が新
撰組の鉢巻きしているアップの(なめネコ風)もかわいかった〜。
 原作はつかこうへいの同名小説。監督・脚本は薬師寺光幸です。(06.6.15)

 
花よりもなほ(2006年)

 時は元禄、松の廊下事件の後、赤穂浪士の討ち入り少し前、ここにも父の仇を探す若侍が一人あり。しかしこの男、剣の腕はからっきし。さぁて
どうするどうなる?
 とまあ、芝居のようなノリのこの映画。舞台も汚い長屋で、そこに住む人たちが主な登場人物なのですが、これがまたみんな個性的。軽く列挙す
ると、岡田准一、宮沢りえ、古田新太、田畑智子、上島竜兵、千原靖史、木村祐一、加瀬亮、平泉成、他。この個性のぶつかり合いみたいなキャ
ストを、それぞれの持ち味をうまく使って、キレのあるボケとツッコミの日常が下地。でもみんなそれぞれに悩みを抱えていて、それがくどくならない
ようにサラリと描いてあるのがまた秀逸です。
 うまいのは個人個人の描き方だけではなく、是枝裕和監督自らが脚本も手がけたストーリーも凝っていて、これだけでも十分に面白いです。主人
公・青木宗左衛門の敵討ちの行方もうまく持っていって、なおかつ忠臣蔵への絡み方もなかなか。
 けっして大作ではないけれど、スタッフみなが楽しんで作ったんだろうなと思わせる、丁寧な作りで、笑いが耐えないけど、描くべきことはしっかり
描いてある良時代劇映画です。キャストが子役も含めてうまいので、安心して楽しめますよ。(06.6.27)

 
BARRAD 名もなき恋のうた(2009年)

 下手な映画やドラマよりも、戦の歴史考証がしっかりしていると評判を得たアニメ映画、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』
が、実写化されました。
 強くなりたいのに意気地のない少年(さすがに尻出し幼稚園児のままでは実写にはできなかったようです)・川上真一(武井証)は、タイムスリップ
してしまう。着いた先は、戦国時代。といっても、春日国という、全く無名の小国だった。そこで「鬼の井尻」とあだ名される春日国きっての武者・井
尻又兵衛(草g剛)と出会う。彼が、国主の娘・廉姫(新垣結衣)のことを好きだと気づいた真一は、彼の恋を実らせようとからかいだすが…、近隣
の強国の大名・大倉井高虎(大沢たかお)が、廉姫と春日国を狙って動き出そうとしていた。突然消えた真一を心配する彼の両親までタイムスリッ
プしてきた春日国に、戦の危機が迫る。
 時代考証がきちんとしているのはもちろんのこと、ストーリーも荒唐無稽過ぎず(タイムスリップすること自体がすでに荒唐無稽だと言われたらそ
れまでですが)、恋愛ものと少年の成長もの、それにタイムスリップもののお約束までをきちんと押さえた感動作となっています。とりあえず見て損
はなしのオススメ作品です。
 ちなみに『BALLAD(バラッド)』とは、英語で物語的・叙事的な内容の伝統歌謡のことで、その内容には武勇伝・ロマンスなど様々なものがある
が、その殆どが悲劇的な結末をむかえるとのこと。チラシより抜粋。(09.10.6)

 
蜩の記(2014年)
 罪人でありながら、藩の歴史を記す家譜作りの特命を受けている身であったために、仕上げるまで切腹の猶予が与えられた戸田秋谷(役所広司)。檀野庄三郎(岡田准一)は、猶予が残り三年となった秋谷の見張り役として、彼の暮らす村へと遣わされる。だが、秋谷や、その妻・織江(原田美枝子)、娘・薫(堀北真希)、息子・郁太郎(吉田晴登)と暮らすうちに、秋谷の清廉な人柄に惚れていく。
 武士としての正しいあり方と、人が人を思いやる心と、美しいものだけを描いているのに、きちんと面白い、高尚な時代劇の見本のような映画です。
 美しい景色の中、美しい日本語で綴られた、美しい心を持つ人々が織りなす、少しの謎解きを含んだ話の、澄み切った空気のような気持ちのいい作品です。(14.11.22)
 
 
魔界転生(1981年)

 窪塚洋介のほうじゃなくて、ジュリーこと沢田研二の方、監督・深作欣二の方です。あしからず。
 原作は山田風太郎の同名小説。
 一番の見所は、天草四郎(沢田研二)に伊賀の霧丸(真田広之)が唇を奪われるシーン! …というのは、半分冗談ですが。
 死後の世界から蘇生した天草四郎が次々と蘇らせる剣客たちとの柳生十兵衛(千葉真一)が強くてヒーローっぽくってかっこいいです。あまりに
活躍するので、近年まで彼が主役だと思っていました、私。特に、最後の炎の中での対決は、殺陣が上手いので、最近の映画に負けないすごい迫
力ですよ!
 歴代の剣客がわさわさ登場する豪華な娯楽大作。私事ですが、見た当時はあまり剣客知らなかった(槍の宝蔵院とか)ので、今見たらきっともっ
と面白いと思う一作です。(05.7.27)

 
真夜中の弥次さん喜多さん (2005年) 

 一部ですごいコアなファンを持つしりあがり寿の同名マンガを、人気沸騰中の宮藤官九郎が脚本・監督で映画化ということで、話題になった作
品。
 時代劇のジャンルに入れていいのか、迷うほどにシュールさが前面に出てます。アメリカンハーレーにまたがった主役二人のポスターが本屋等
に貼られていたのを見た方多いと思いますが、作中でもしょっぱなから乗ってますから!
 主役の二人、弥次さん(長瀬智也)と喜多さん(中村七之助)はホモの恋人どうしという設定。見る前はいろんな意味でドキドキしてたのですが、全
然気持ち悪くなかったです。弥次さんは男らしくてまっすぐで、喜多さんはかわいらしくて、どっちも好きになるのが分かる素敵さでした。手をつない
でスキップするとことか、仲良しさんな感じがすごく微笑ましい。
 豪華なゲストが、むちゃくちゃな役で出てるのを探すのも、また楽しみの一つ。私は中村勘九郎が一番びっくりしました。よく引き受けたな、と。
 ラストに向かうほどシュールさは増えていくので、まじめな方には辛いかもしれません。(05.7.20)

 
壬生義士伝(2002年)

 浅田次郎の同名小説を映画化。監督は滝田洋二郎。
 家族を養う金のために人を斬る男・吉村貫一郎(中井貴一)と、人が斬りたくて人を斬る男・斎藤一(佐藤浩市)二人の新撰組内での対立を中心
とした話。この斎藤一が維新後、当時を振り返る形で描かれています。
 インテリっぽい役の多い中井貴一が、他の隊士から「金の亡者」とののしられる南部弁まじりの田舎者を好演。渡辺謙主演の10時間時代劇の
同作品放映とほぼ同時期の公開だったので、かなりプレッシャーだったと思います。
 特筆すべきは、04年のNHK大河ドラマ『新選組!』で山南敬助を好演した堺雅人が、沖田総司役で出てること。同じく芹沢鴨役の佐藤浩市も合
わせて見比べると、面白さ倍増です。作品と全然関係ないところのおすすめで申し訳ないですが、これだけ短期間で二人も配役が被る、しかも違う
役の新撰組も珍しいと思います。話のネタにぜひどうぞ。(05.10.9)

 
柳生武芸帳 (1961年)

 五味康祐の同名小説を映画化。シリーズものの第一作目です。
 柳生武芸帳なる二巻の巻物をめぐって、剣客に忍者も入り混じっての争奪戦。アクションも多く、テンポもよくて、コメディタッチの部分もありと、展
開盛りだくさん。
 柳生と言えば主人公は柳生十兵衛。近衛十四郎が殺陣も演技も風格も、文句なしに演じてます。それに加えて、若い里見浩太朗が若殿、同じく
若い山城新伍が若侍。二人ともほんとに美青年でかっこよいです。花園ひろみもかわいらしいおてんば姫で、男装までしてくれて。そんな今では考
えられない超豪華メンバー。
 古い作品って今見るとあんまり迫力がなかったりで面白くなかったりすることも多いのですが、この作品は画面は白黒でも、話も面白いし、アクシ
ョンシーンも古くない、今見てもしっかり楽しめる良作です。(05.10.23)

 
ラストサムライ (2004年)

 ハリウッド映画なので、ここに入れるのもどうかと思うのですが、主役のトム・クルーズが大の日本好きな上に、『葉隠』まで読んで武士道精神を
勉強したと言うだけあって、よくできていたので、上げておきます。
 舞台は明治維新すぐの時代。帝国軍の軍事指導教官として日本に来ていたオールグレン大尉(トム・クルーズ)は、西洋化に反対する侍たちの
長・勝元(渡辺謙)たちの軍に襲われ、捕らえられる。そして勝元の屋敷で共に生活するうちに、心を通わせる、という話。
 吉野がジャングルだったり、勝元の屋敷が富士山のふもとで冬には雪に閉ざされて孤立したり、そんな土地なのに勝元の妹・たか(小雪)が滝で
髪を洗ったりと、変な場面もありますが、腹立たしいほどおかしなところはなかったと思います。たかが愛想よくオールグレンの世話をした後、部屋
を出て「あの獣のような匂い、我慢できません」と憎憎しげに語るところなど、うまいなあ、と感心しました。『勝元』も始め名前だと思っていたのが、
資料見て苗字だったことに気づいたり(笑)。
 舞台がほとんど日本な上に、日本語のセリフが半分ぐらいあるので、いっそのことハリウッドじゃなくて、全面協力したという松竹がトム・クルーズ
を招いて作ればよかったんじゃない?という気がしないでもない映画です。日本語のセリフに英語の字幕が付いてるのを見るのは、面白かったけ
ど。まあ、話のタネにどうぞ。(05.9.8)

 
乱(1985年)

 黒沢明監督作品。彼の映画は古そうなイメージがあったので、カラーだったり、知っている俳優(仲代達矢、寺尾聰、根津甚八、等)が多くて、少
し驚いた作品です。衣装デザインをワダエミが担当してますし。
 シェイクスピアの「リア王」を下敷きにしており、黒澤作品によく見られる寓話的要素もあります。特にそのテーマの代弁者とも言える、狂言師(道
化?)の少年役のピーターがかわいいです。
 戦国時代を舞台としつつ、話自体は完全に創作と思われますが、殿と三人の息子の話で、毛利元就の「三本の矢」の話が出てきます。分かりや
すい筋書きな上、ワダエミの衣装で役ごとにイメージカラーがあるので、見ていて内容が大変分かりやすい作品です。でも、それなりに凝った話で
すし、ラストも予想できなかったので、面白く見れると思います。黒澤作品初心者にお勧めです。(06.5.14)

 
竜馬の妻とその夫と愛人(2002年)

 舞台は、坂本竜馬の13回忌ごろ、いわゆる散切り頭の時代。竜馬に愛された彼の元妻・おりょう(鈴木京香)と、おりょうの現在の夫で、頼りない
テキ屋の松兵衛(木梨憲武)、そして竜馬によく似た虎蔵(江口洋介)、おりょうの妹の夫で、竜馬の部下でもあった菅野覚兵衛(中井貴一)の四人
による、喜劇です。四人とも、その役にぴったりです。特におりょうはきれいです。
 原作と脚本は三谷幸喜。二段オチになっており、竜馬好きな方にはもちろん、三谷幸喜お得意の閉じられた人間関係の中で起こる喜劇が好きな
方には、おすすめの作品です。特に後半は時間を忘れて見入っちゃうほど面白いですよ。(07.1.23)

 
RED SHADOW 赤影 (2001年)

 近年珍しい、超娯楽時代劇です。元は「仮面の忍者 赤影」なのですが、全く知らなくても大丈夫。もちろん知っている人ならニヤリする個所もあり
ます。
 とにかく出演者が盛りだくさんです。ざっと上げておきますと、主役の赤影が安藤政信、青影が村上淳。ヒロインが、奥菜恵、麻生久美子。途中で
ヒロインがバトンタッチするという、ある意味豪華なストーリー。二人とも絵に描いたようなかわいさです。
 脇を固めるのが、竹中直人、谷啓、藤井フミヤ、舞の海秀平、篠原涼子、きたろう、でんでん、神山繁、福本清三、照英、津川雅彦、アリーナ・カ
バエワ、中田大輔、布袋寅奉、風間杜夫、吹越満、椎名桔平、根津甚八、陣内孝則とまあ、とてつもなく豪華。しかもそれぞれ娯楽作品だからって
手を抜かず、真剣に演じています。分かりやすい役の人もいれば、言われないと分からないような役の人もいて、どこに出てるか探すだけでも楽し
いかも。特に二枚目アーティストとは思えない藤井フミヤのノリノリの演技はびっくりですよ。
 忍者映画なので、アクションもしっかり見ごたえあります。
 本来子供向け作品なので、かなり遊び部分が多いですが、そこらへんを踏まえた上で見れば、大人でも十分に楽しめ堪能できる作品です。やや
ギャグはすべり気味なので、笑いを求めて見ると点が厳しくなると思いますが。
 笑いも、かっこよさも、恋愛も、シリアスも、クールさも、エロも、そしてアクションも入っているお子様ランチみたいな作品。あまり深く考えずスカッ
と楽しんで見るのにおすすめです。(06.5.30)

 
嗤う伊右衛門 (2003年)

 「四谷怪談」を大胆に新解釈した京極夏彦の同名小説を、蜷川幸己が映画化した作品。人はこんなにも人を愛せるのかと思わせる、究極の愛
の物語です。
 生まれてから一度も笑ったことがないという無愛想で寡黙だが、決して愚鈍ではない男・民谷伊右衛門を唐沢寿明。痛々しいほど正しく強い心
と、美しい顔に醜い痘痕を持つ女・お岩を小雪が、どちらも雰囲気にぴったりな美しい好演。その他の出演者も、みなうまい人ばかりなので、幻想
的な雰囲気で淡々と進む話でありながら、飽きることなく世界に没頭して見れます。また、悪魔の申し子のような椎名桔平の悪すぎる演技も見も
の。出演者の中にファンの俳優がいる方は必見です。
 エロチックなシーンとグロテスクなシーンが前触れなく出てくるので、食事時に見るのはお勧めしません。(06.4.16)

 
参照 ぴあ株式会社発行 『サムライDVDパーフェクトガイド2005−2006』

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