頂き物

寄稿いただいた時代劇ものの紹介ページです。
すばらしいものを本当にありがとうございます。

耕さまから

☆少女漫画で三度笠?
『ひとゆり峠』 山口美由紀・著 花とゆめコミックス(白泉社)

 持って生まれたその呪われた「力」のために、一つ所に留まることなく、また、行くあてもなく旅を続けているひとりの旅人(たびにん)。
彼はある日、夏の雨の日の夜に決まって旅の男が殺されるという村に立ち寄る。村人はそれを「あざみ姫の祟りだ」と恐れていた。念じるだけで人
を傷つけ、病にも至らしめる力を持っていたというあざみ姫。
 旅人は村の手前で、ひとりの女に出会っていた。彼女は、彼に「殺してほしい者がいる」と持ちかけてきた。彼の持つ呪われたその「力」で殺して
ほしい、と――

「力」が引き寄せるのだろうか、出会う人々は、彼同様、特異な力に翻弄される者ばかり。
 名前さえ捨て去った彼の、流れゆく旅の果てには何があるのか――

 少女誌でも時代物は増えつつあるが、縞の合羽に三度笠の主人公は珍しい。繊細なファンタジーを得意とする作者が、4編にわたって綴る、渡
世人の異色幻想時代物語。


☆大人もホロリ。やさしくせつない戦国絵巻
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』 臼井儀人・原作 原恵一・監督/脚本

 のはらしんのすけは、キレイなおねいさんと、正義のヒーロー「アクション仮面」が大好きな5歳の幼稚園児。
 物語は、ある夜家族揃って同じ夢を見たことから始まる。それは池のほとりでひとり寂しげに佇む着物姿のお姫さまの夢。
 翌日、飼い犬のシロが庭に大きな穴を掘り、しんのすけは穴の底から、古ぼけた箱を見つける。中には一枚の手紙が入っていた。自分の字と絵
に間違いないのだが、書いた覚えがない。
「おひめさまはちょ〜びじんだぞ」
 その文章に、ふと、夢で見た寂しげなお姫さまを思い出す。
 目を開いたとき――しんのすけは、合戦真っ只中の草原に立っていた。
 刺客に狙われていた侍の又兵衛(またべえ)を、偶然救ってしまったしんのすけ。現代に帰る方法もわからないので、又兵衛に連れられてお城へ
ゆくと、そこには、夢の中に出てきたあのお姫さまがいた――

 自分の住む時代とは異なる、生と死が隣り合わせの戦乱の世。そこに生きる人々の姿に、しんのすけは、そしてあなたは何を思うだろうか。
 合戦風景は、武器防具から陣の進め方まで、大河ドラマに匹敵するほど細部まで描かれている。ギャクでおなじみの「クレヨンしんちゃん」という
先入観を取り払って見てほしい劇場版大作。大人でもホロリとさせられます。


☆初心者にオススメ!マイルドな剣客人情時代小説
『手習重兵衛 闇討ち斬』 鈴木英治・著 中公文庫(中央公論新社)

 江戸のはずれにある、のどかで静かな白金村。
 わけあって行き倒れていた重兵衛を救ってくれたのは、手習師匠の宗太夫。賑やかな手習の子供たちに囲まれ、傷と心を癒す日々を送る重兵
衛だったが、ある日、恩人の宗太夫が何者かに殺されてしまう。剣の腕に覚えのある重兵衛は、親しくなった同心河上惣三郎の力を借りて、下手
人を見つけ出し、仇を討とうと心に決める。行き倒れるはめになった追っ手の足音にも気をつけながら――

 この第1巻の『闇討ち斬』では、重兵衛の「わけあり事情」は深く語られず、第3巻『暁闇』までのお楽しみだ。間に入る第2巻の『梵鐘』は、第1巻
の外伝ともいえる短編集。脇役達の魅力が引き出され、今後の活躍が楽しみになるような余韻を残す。全6巻完結。

 時代劇では御馴染みの、剣客同士の技ある戦い、同心が駆け回る捕物帳、そして心触れ合う温かな人情劇と、すべて堪能できる。小難しい時
代小説は敷居が高い、殺伐とした話は苦手、という方にも、安心して読んでいただける作品。読めばすぐ引き込まれることうけあい。お試しあれ。



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